スウェーデン王立科学アカデミーは7日、08年のノーベル物理学賞を、米シカゴ大の南部陽一郎名誉教授(87)=米国籍▽高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)の小林誠名誉教授(64)▽京都産業大理学部の益川敏英教授(68)の日本人3人に授与すると発表した。
各氏およびその研究に協力されて来た方々には、素直に「おめでとうございます」と言いたいです。
とくに南部氏は、理学部でさえない僕でも名前を知っているほどの方です。というのはまあ、ブルーバックスなんか読んでたせいもあるけど。ともかく、これはたしかに「当然」だ。最先端で過激なことをいった人ほど、その分、実証や発見による衝撃の波及が遅れがちになるのかもと思う。
一方で、南部さんが受賞したことには「当然のことで、南部先生が取ったのが一番うれしい」と喜んだ。「南部先生が我々に非常に速くアイデアを出してくださった。しかし、それを最後まで刈り取(ってご自分の成果にす)ることがあまりない。南部先生は(これまで)賞にはマッチングしなかったんですね」と話し、「日本人としてとてもうれしい」と強調した。
「勇気づけられ」てないで、勇気づけたい(あなたも「られて」ないで、勇気づけてください)
ただ「日本の」とか「基礎研究が勇気づけられた」とか。ちょっと待ってほしい。いや、完璧に否定するわけではないが、なにか視点が最初からずれてる気がする。
「社説:ノーベル賞 基礎研究が勇気づけられた」
02年の小柴昌俊、田中耕一両氏のダブル受賞から6年。そろそろ日本人が受賞してもおかしくないとの期待が高まっていたが、3人の共同受賞は予想外で、うれしい驚きだ。しかも、対象は49年に湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞して以来、日本の「お家芸」とみなされてきた素粒子物理学である。日本の基礎科学の底力が改めて確認されただけではない。宇宙の成り立ちに深くかかわる成果であり、子供たちの科学への夢をはぐくむ効果もある。3人の快挙をたたえ、拍手を送りたい。
「日本の」というレベルで語りたくないのは思想の問題かもしれないが。それにしても、なんか規模が大きすぎるというか、まとめすぎ。特に「基礎研究が」というのは「おれだって基礎研究やってますけど、何か?」という人も多いのではなかろうか。基礎研究は成功するかどうか、予想が立てにくい。そもそも予想を立てるのも研究のうちなわけで…。そのときにまず第一に、たよりにできるのは「ノーベル賞の予感」では、ないだろうと思ってしまう。
(なぜか並列にならべてあるけど、「宇宙の成り立ちに深くかかわる成果」は物理学上のはなしで、「子供たちの科学への夢をはぐぐむ」のはノーベル賞の社会的影響力だし。とかつっつきはじめたら、きりがないですが)
一方で、冒頭に引用したのと同じ会見で「『いや、大してうれしくない』と言ってのけ」ているのに、南部の受賞については「日本人としてとてもうれしい」といっている。この感覚ならば、まあ、わからないでもないんだよなあ。
もちろん当事者であれば、(益川氏だって)認められるのは、実際のところ(それなりには)嬉しいだろう。
おれは、受賞されたときけば祝福したいと思った。でも、個人的にはそれだけだということ。物理学への政治的支援がつよくなるといいなとは思うけど。おれは、物理学ではないせいもあるけど、(でも基礎研究やってるのに)勇気づけられてはいない。ですよ。
…報道陣の前に姿を現し「喜びの声を」と求められたた益川敏英さんは「いや、大してうれしくない」と言ってのけ、報道陣の爆笑を誘った。…そして「だって物理屋としては、我々の言っていることは既に02年、03年の実験で確立された。それがいちばん重要なこと」と淡々と語った。「その時はうれしかったが、後は社会的なお祭り騒ぎということ」
ともかく、日本人だからというだけで、研究者でもないのに、勝手に「勇気づけられた」などと書かれても…とおれは思ってしまう。ノーベル賞の本質が、(過去の)功績をたたえるものになっていることもある。本人や関係者とか後輩でない人まで「勇気づけられた」りするように書くのはなんかおかしい気がしてしょうがない…。
なんでだろうか。やっぱ、個人的には、遠いから?おれ自身が勇気づけられた気がしないからか?それだけでもないんだよな…。
ともかく個人的には、勇気づけられている暇があったら、勇気づけられるべき研究者を勇気づけよう!といいたいです。
だから、というわけではないけど以下の、「自分の考えを大切にして、それを推し進めていく」というメッセージは、ちゃんと読んで受け止めたいと思う。
若い研究者へは「自分の考えを大切にして、それを推し進めていくこと。人それぞれの考え方のバリエーションが出て来る」。研究生活については「自分のやりたいことだけをやってきた。わがままな研究生活だった」と振り返った。
追記:「若い研究者の励みに」
◇若い研究者の励みに
2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治・理化学研究所理事長の話 日本人3人が独占するとは想像もせず、驚くとともに一科学者として大変うれしく思っている。基礎科学での業績が認められたこともうれしい。世界的にそうだが、特に日本は研究が産業経済に及ぼすインパクトを強調し過ぎるきらいがある。そういう意味で今回の受賞決定は、若い研究者の励みになるし、政府も基礎科学の充実に目を向けてくれるようになるとありがたい。
普段、自分だって研究してる人が「研究が産業経済に及ぼすインパクトを強調し過ぎるきらいがある」という前提で、こう、励みになってほしいというなら、わかるんだけど…。