プログラマーになりたい。

プログラミングや写真や本や読書会のことや、日常のこと。

夢のストーリー

あのね、他人の夢の話しほどつまらんものはない、ってよくいわれる、そのつまらんものです。 「夢みたいに楽しい」という意味の「夢の」ではなく、「寝てる間に見た」ストーリーですので、誤解なきよう…。

6月○日。あと○日しかない。いや、まだ○日だ。
と、○○は気になってしょうがないらしい。いかにも、そわそわしている。
窓際の中程の席に、夏服の黒いズボンに、白シャツのボタンを2つ開けて着て座っている男子生徒だ。短めの髪を、ワックスで少しふわっとさせている。その下の顔は、卵形の薄くふつーの印象。
視線は黒板に向いているつもりだし、手は一応ノートに板書しているだが、どうも気になる。
教室の雰囲気がなんとなくのんきで、明るくざわついているのはいつものことだけど。
ノートの半分には、部活動のスケジュールのプリントがのせられていて、彼の手は気づくと勝手に「6月○日」と印刷された文字のまわりに赤ボールペンで、ぐるぐる、ぐるぐる楕円を描いていた。
いい先生なのだ。授業は分かりやすいし、数学だけど文字も図も几帳面できれいに描く。でも、どうやっても頭がそっちを向かない。
「6月○日」。まだ先だ。あと○日もある。
ほら、黒板、黒板。


と、ふと顔を上げると、先生が妙なことを始めている。眼鏡をかけたパンダのような顔を、半分黒板に向けたまま。筆で描いたように、漢字の輪郭を描いて、塗りつぶす。
「しってるかー。これ■■■の■の旧字なんだよー。こうやって下に心。」
■■■は6月○日の会場で、見透かされたような気分になり、挙動不審に陥る。
「わ、いや、だから○日もまだあるし授業中だし、あそうか、え、でもああ…」
と、○○は完璧にパニクる。もともとざわついた教室だから、多少変なことを口走っても誰も気づかないが、しかし、かわいそうなぐらいに痛々しい挙動不審振りに、つい、つい、頬をパチンと張ってやりたくなった。


その間に文字は完成し、先生は中央の通路を後ろに向かって歩いていた。一番後ろの席の生徒になにか話しかけて笑っている。ふんふん。ほう。ははは。その向こうの開けっ放しの扉からは、廊下が見える。
と、同じ部の××がその廊下を走って来て、顔を出し、こっちを見て「ちょっと、ちょっと」とぺらぺら手招きしている。
すぐに○○は姿勢を低くしたまま、すたたたとネズミのように走りだし、机ひとつ開けた先生の背後をぬけて廊下へ出て行った。


視界の端の動きを認めたのかどうか微妙な間をおいて、先生は用が済んだとばかりにゆっくりと2、3歩で振り返り、教室をひと眺めしてから、今度は窓際の通路から前へ戻るつもりでそちらへ向かった。
○○の席をちらと見ると、○○の席には、空いた○○のイスと自分のをならべて、そこに堂々と寝転がって通路を塞いでいる、紺のカーディガンを着た○○の隣りの女子生徒の頭があり、目が合った。
ロングの髪が床に触れているが全然気にしてない様子で、先生に気づくと、あはと緩んだ笑顔を向けた。起き上がる気配は、ない。
先生は、すたすた近づいていって、
「お、髪が汚れるぞー」
と、床に落ちた髪の束を無造作に胴の上へ放り投げた。
そして、すこしあきれた顔でもう一度を視線を合わせると、結局、彼女を避けて迂回し、教卓にもどった。
そして、黒板を見、漢字の輪郭を黒板消しでひとなでして消す。彼の意識からは、出て行った男子生徒のことも、女子生徒が寝転がっていたことも、すでに抜け落ちていた。

目覚めた。

Creative Commons License ©2007-2021 IIDA Munenori.