プログラマーになりたい。

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本来的に1人であること

今日読んだ本に、

 社長業は孤独業——。
 そんなことを、ふと感じた。

なんて書いてあるのを読んで(垣根涼介君たちに明日はない』(新潮文庫))、そうだよなーそうなんだよなーと、うなずいてしまった。我ながら、それちょっとどうなんなだと思わないでもないんだけど。ま、ある面で事実ではあるんですよたぶん。

なんでか知らないけど、こういう立場になると、どうしてもじぶん1人だけで抱えるしかない何か、を持つことになるみたいだ。

おれの場合、そもそもパソコン1台分ぐらいでしかない規模の会社だから、相対的にはほんと些細と言えば些細なことなんだろうけど。それでも関係者全員の利害を調整する立場上、それをそのうちの一部だけと個人的に相談するのはルール違反だという気がする分野はある。逆に利害に絡まない人からみれば、たぶんシリアスに、あるいは成長見通しが楽天的過ぎだといわれておしまいだろう。それは、じぶんや会社の将来について自由なビジョンを持てることと、たぶん表裏一体のものだから。(だから経営コンサルって商売が成り立つんでしょうか。それでも、最後はじぶんの責任だけど。)みんなそうなのかは知らないけど、思いつくあらゆる最悪の事態も、予想外にいい事態が降ってくる可能性も(場合によっては、その確率をあげるための妄想レベルのプランも)、どちらも考えてしまうから。とくに悪い方については、それこと、誰にも言えない内容を含むし。

利害関係とかいう話を抜いても、じぶんのことを完全に理解する他者ってありえないとすれば、その意味でも、「考え過ぎ」などといわれるのはあたりまえなのだけど。「完全に理解している」という事実まで含めて、つまり他人の奥行きまで含めて、完全に把握できるなんてたぶん幻想。むしろ理解できない部分と、理解してもらえない部分があって当然。なのだと感じるから。

そもそもなんでそんなにあらゆることを考えてしまうのか。それが仕事だからとも言えるけど。

肉親でも、友達でも、あるいはどんなに近しく感じる人でも、たとえば金銭とかの具体的な利害が絡んだときにそうしていたことがしばしば問題化するようだけど、なにも考えずに信頼するのは、ただ一方的に責任を押しつけているだけだ、と思う。信頼した結果じぶんの被った損失というのは、ある部分では「返せ」などといえる性質のものではないということ。

信頼するってことは、じぶんの判断で、大げさに言えばじぶんの血肉を賭けて、リスクを取って、そのうえでのみできる行為だ。という妙にしっかりした実感をもつようになった。だから無条件に信頼するというのは、無条件に、無制限に、全範囲ですべてを差し出すということだから、そう簡単にはできなくなる。言葉としては言うだけなら美しいかもしれないけれど、まずその前にその覚悟をしなきゃいけないわけで、それって結構泥臭い、悲愴な覚悟だ。ましてや、じぶん以上を賭けること、責任を取れないことについてまで、信頼してしまうなんて本来できないはずなのだと思う。そういうわけで、1人でやってるわけではない以上信頼というキーワードはでてくるし、また強く他人を信じるほど、なにか小さなことがあっても、その時々にいま抱えているリスクに思いがいくようになったということだと思う。

そういう絶対に見せられない孤独な部分が少しだけど常にあるという感じを、ああ、と納得してしまった瞬間、あるいは思い出す瞬間は、独特の寂しさがあって、冷たい風が通ったみたいに胸の辺りが少し重く、ひんやりとする。それでいて、同時に自由というか、大きな開放感もある。

何かにつけていちいち相手に対する負の感情を感じなくなるし。あるいは、迷惑も大してかからず、責任が取れる範囲でなら何やったっていいんだと思うと、結構何やってもいいんだな、と知ったり。たぶんそうやって、やっと、いまさらだけど、徐々に大人になってるのかな、とか最近思っている。

他者を完全には理解できないということについては、中学のときにプログラミングにのめり込んだ時期と、高専に入ったころに、入学前に想像していた雰囲気と違うと気づいたときに、そうかもなという程度には思ったけど。信頼するプロセスみたいなものについて、どういうことなのかと初めて実感をもってちゃんと考えられたのは「社長」(厳密には代表取締役)になってみてからだから、それだけでも、こんなに小さいけど、会社を始めてみた価値があったとは思っている。ま、本来は先に気づくべきことなんだろうけど。

というか、そもそも、社長だけではなくみんな孤独なはずなのに、なにか、じぶんとその外側の間に見えないフィルターを張って、それを無意識に隠していたのだと思う。「バカの壁」(ほんと美しくない言葉だけど)みたいな。

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