文フリで買った石川美南×服部真理子『ノーザン・ラッシュ vol. 1 爬虫類』を読んだ。
16ページの小振りの小冊子だが、カバーや表紙、挿し絵などだいぶ凝ったつくりだ。ふたりの歌人が爬虫類カフェへ行ったレポートと、そのときのことを中心として、それぞれが詠んだ連作が納められている。
服部真理子「樹は夜も」
日の光、月の光と順に浴び亀はひと日を動かずにいた
僕たちの祖先と彼らの祖先が分岐した日の朝焼け思う
登場するのが亀だということもあるかもしれないが、人間よりも長い一生を悠然と過ごす姿がうかぶ。
後者はさらに長い長い時間を扱っている。
いずれも未知の光景なのにイメージできてしまうのが不思議だ。
鱗ある足や足でないものが僕とあなたの夢わたりゆく
天を衝くほどだったという古代樹を二人がかりで思い描けり
水の量測るすがたを見つめてる花はあなたに素足を見せて
石川美南「脱ぐと皮」
わたし変温動物だから灼熱の打ち明け話ほとほと不得手
てらてらと光てやまずわたしより先に脱皮した友だちが
わりと違和感なく読めてしまったが、爬虫類が主人公ってやっぱりちょっとおかしみがある。
恒温動物の打ち明け話はやっぱり熱いから、変温動物のトカゲかなにかが「おいおい、わたしに聞かせてくれるなよ」と愚痴ってるみたいで可笑しい。変温動物って鳴かないのも多いから、余計に愚痴を聞かされそうである。
心かつ踵かつかつハイヒール履けばこの世はいよいよ硬し
どうでもいいかもしれないけど、これはハイヒールを履いたことのある人の歌だなあ、と思った。いままでそういうこと考えたことなかった。けど、たしかに、あんなに底の硬いものを履いて、硬い「この世」を歩いたら、膝まで振動が響きそう。
面白い歌集でした。