- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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絲山秋子は不思議だ。これの冒頭とか、なんとなく「おっさん」のエロさだと思う。エロ本的・AV的なエロ。
でも、エヴァの殻が何かの拍子にバリッと割れたら、その隙間から何かいかがわしい生物が覗くいたように、「おっさん」の割れ目から違う生き物がぞろりと見えることがある。
でも気づいたときには、ただならぬ気配に呑まれている。見えないところに一体どれだけのやばいものを隠し持ってるんだろう。
本を選ぶとき、前から数行を読んで、つぎに、いきなり結末を眺めちゃうときがある。たぶん文庫の解説から読むのと同じような心理だと思うのだけど。で、今回も、ぱっと後ろの方のページを開いてみたら
ねえ——
頼みたいことがあると、額子が言った。
生活のことでも殆ど何も困らないんだけど、一個だけできないことがあって。
どんなこと?
右腕を洗って欲しいの。ガシガシ洗ってほしい。
ああ、そんなことだったら。
あとね。
なに。
右の脇毛を剃って欲しいの。
ヒデは躊躇する。
どういうつもりだよ。
自分じゃできないから。
わかったよ。
(『ばかもの』pp.143-144)
というところだった(このときの額子には、肩から先の左腕がない)。
これが妙に印象に残った。
ここのやりとりと、この後の描写が一番エロいと思う(好みの問題もかもしれませんが)。単純に「露出が多い」とかいう尺度だと、もっとすごいことが冒頭から書いてあるけど、印象はこっちのが強かった。
「ない」ことによって、「あった」ことが、より濃く残る。
リズムもあるのかもしれない。ふつうの会話はちゃんとカギ括弧でくくってあるのに、ここはそうじゃない。とか。