包装済みのナマモノ
現代少女概論のid:at_yさんにmixi日記を1ヶ月コンプリートした画面をみせた際目に入ったらしい「生の肉は、ただの生肉だから。」という文章がいいというので、真に受けてその日記を載せてみることにしました!
■包装済みのナマモノ(2007年08月01日02:05)
書かないことによってかえって強い印象を残すのは江國香織ですが、言葉を捉えられない主人公を出して、言わせないことで、感覚だけを伝えることで、強烈に輪郭のはっきりした「物体」を渡してくれる桜庭一樹。
いちおうレーベルはライトノベル系(ファミ通文庫)だし、挿画もそれっぽいし、文章もライトだけど、言わない内容は、登場人物に名前をつけさせないことで物語に出てこないだけでライトなんかじゃぜんぜんない。
むしろ軽くて薄いそのフィルターでつつんだせいで、エッジがはっきりして、それでいて生々しい感触がよく伝わってくる。ほんと必要以上に。だからすごく生っぽい感じがする。
ただ、生々しい描写はあるけど、主人公がそれが何か判断できていないからエロくもないし、グロくもない。
生の肉は、ただの生肉だから。
しかし、いくらきれいに包装してあっても、いくらきれいに裁断して整形してあっても、それが生である限り生肉であることには変わりない。それは生肉だから。
それはただの物にちがいないけど、ただの物に「生」という性質を見てしまう。その奇妙さ。
その生々しい感覚を感じながらもふつうに生活しているから、登場人物たちはわかっていないのかと思いきや、名前が付けられないだけ。それも、うすうすわかってくると、にわかにそれが暴れ出す。
精神が物であるからだにに分かちがたく宿っていること。精神が生ものにつねに触れていること。主人公たちの困惑はそれに明確に気づきそうになってしまったときの困惑だと思う。
客観的に見れば物語を読んだわけだけど、主観的には、薄い包み紙で包んだ、ずっしりとした生のものを手に直接置かれた感じがした。生暖かくて、ぐんにゃりとしたものを。
桜庭一樹はほんとうにあなどれない。手強い。「寄らば斬る!」じゃなくて、「寄っただけで切れちゃう」ほどの切れ味。毎度毎度、バッサリやられた気分になる。
荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)
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