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文学工学への課題

「わたし彼女」周辺の変な状況を見て思ったことは、さっき書いた通りなのだが、ちょっと考えればわかるように、以下の表現はちょっと言い過ぎである。

オートマトンでの表現ができることが示されてしまった

(ちなみに、日本語が変なのは、つっこまないで下さい。)
実際のところ、まだ、オートマトンの状態遷移図で、完全な記述が可能になったとはいえないだろうという意味で、これは言い過ぎた。
「完全な記述」とは少なくとも「わたし彼女」を、適切な初期状態を与えるだけで生成(再生)できるオートマトンが存在するということ。これは示されていない。ひとつの可能性としてはマルコフ連鎖があるが、これも自動生成された文章は、いまのところ完全ではない(そもそもモンテカルロ法の限界もあるのかな…)。


さらにもう一点。これももとの日記と重複するのだけど。
解析手段がわからないこと。
もちろん情報科学とか離散数学(応用数学)とかいうような分野で、言語処理とオートマトンの研究はあるけれども、文学という分野にあえて限定したものはそうそうあるとは思えないから。

「読まない」アプローチ

そもそも文学というのは、述語論理などよりも、「暗黙の了解」とか「行間」とよばれるようなものがあるため、文字数に対する情報量がより多いと考えられる。それから、内部でも一般性がなかったりする。物語の辻褄は合っていても、状況が変わったという理由で、いくらでも論理性は破綻しうるはずだし。
ここでは、「圧縮」された表現のまま扱うという方法と、不可逆的な手段も辞さずに、コンテキストの記述を補ったり、記述する視点を変更することで記述の伸張をしてしまう方法が、どちらもありうるはずだ。前者の方が、物語の物語性を考えやすいかもしれないが、潜在的な関係性などが後者のアプローチで明らかになる可能性もある。というか文学の研究では後者の方が一般的だと思う。
でも、そもそも、なんでこんなことを考えているのかというと、文学の研究も文学、みたいな状況らしいから。というのは言い過ぎかもしれないけど。基本的に文章でやってるみたいだから。そうでない方法を模索したいのだ。
文学の範囲で、図表で示せるのは、せいぜい地理的な関係、人物相関図、時刻表、年表ぐらいだろうか。それから、とくに人間関係に顕著だけど、関係性自体が状態遷移するのを人物相関図は表現しない。エピソード間のつながりを、機械的に記述する手段もないように思う。板書で、よく「A→B」のような書き方はあるし、「プロット」というものを作者が持っている場合もあるだろうけど。それも、かなり主観的だ。ただ、これらはどれも、どちらかというと「読み込む」作業で、それは情報の「伸張」にあたる。そしてどうも「伸張」は「平均的な読者」とかを仮定しないとできないかもしれず、その意味で文学の延長線上にあり、わざわざ逸脱するにしては面白くない。


射程距離は、ややもすれば原理主義的になる可能性もあるけど、やはり元の文章の情報を完全に保持したまま(完全なまま)で、どこまでできるか。だと思う。あるいは、外部から情報を取り入れて「足し算的」に解析するのではなく、あくまでも構造そのものを重視する「引き算的」なやりかたは、どのような利点・欠点があるか。コンテキストはコンテキストとして背後には存在するとしても、それはそれとしてひきずったまま、どこまで回転可能か。とか。
たとえば、文章の語り手の視点を保持すれば、すくなくとも「平均的な読者」みたいな不確定要素を導入せずに済みそうだから(キャラクターとストーリーを、視点を設定せずに、完全に剥離可能だと考えるのは、おそらく無理がある)。


そもそも、物語の機能というのは、物語の実践(記述や読解)以外ではいまいち議論しにくい。だから物語をいかに読むかというのが文学的なアプローチなんだろうけど、あえて「読まない」アプローチもあったっていい。


というか、単純に、「わたし彼女」の第1章の「みたいな」状態の周囲は、とても興味深いと思った。言ってることが矛盾するけど。これ、ループが何通りもあるので、「正しくない」文章が生成されうるんだけど、それが一体何かと考えるのは面白そうだと感じないだろうか。
ここで書いたの結局記述の問題ばかりになってしまった。ただ、ともかく、一旦グラフ構造などで表現しなおすことで、Webのリンクの構造からPageRankを算出するみたいに、背景に何かの構造を想定してモデル化して、モデルから別の「影」を取り出すみたいなことができるかもしれない。モデル化によって、研究のアプローチが増えるかもしれない。ということだ。


で、その記述から、単純であっけない方法で、奇妙な成果を残すのが応用分野のエレガントさというものだろう。

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